2014年8月9日土曜日

夏の匂い

銀行からの帰り道、

お爺ちゃんがお婆ちゃんを自転車の荷台に乗せ、
お婆ちゃんは少女乗りで、
こぎみよく夕暮れの中へ消えていった。...
二人のりは交通ルール違反だと

野暮なことはいいっこなしで、

夏もそろそろ音速で過ぎ去ろうとしている。

 

夏の諸問題といえば

もちろん腋の匂いだろう。

ジャンヌダルクのような女が

「鉛筆の芯の匂い」と形容したがる、その匂いだ。

存在を存在たらしめるあやふやな境界をもちつつ

明確に記憶や副交感、交感神経の門をバタバタ揺らし

刻まれるスパイシーな匂いだ。

ジンを飲み過ぎたりや沈黙でカニを食べ過ぎると

濃度が濃くなりもするという諸説はどうでもよく、

白ワインを飲み過ぎた顛末に

我が脇は微かにブドウのしぼり汁を含んだ

樽の匂いがして、さぞかしかぐわしいと思いきや

人にとっては不快なものだ。

自分の匂いは臭いと認識しつつも

なぜか惹かれる匂いだが、

ひとのその類の匂いは

相手のテリトリーに踏み込んだだけの

危険な香りがするものさ。

それを微かな香りにまで希釈すると

とてもいい香りになるのだと、

まことしやかに語られる話は少年の内奥に刻まれはするものの

大人になるまでひらかれない戸棚の奥にしまわれて

人の足音に時々カタカタ振動してみたりする。

ただ、そんな戸棚の引き戸をあけてしまった

俺に言えるのは、

密室のなかのカメムシは自分の屁で気絶する

そんな素直で自然な振舞いが神々しく想い、

見つけてしまったへその緒が木乃伊になって

過去の自分の顔が想いだせないということだけ。

 

 

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