乾杯をいわずに飲むひとり酒。
ありがちな句だ。ありがちすぎて、
だれもこないのに誰かを待つふりしたり
しながらピッチをあげようもんなら、
酔いは加速する。
しゃべる相手もいない。
店のオヤジは常連客と
下の話へと引き込もうとするが
なかなかその常連もその道にはのらない。
いつもの夕暮れがどうでもよくなる頃あいにまで
麻酔をかけられたようにひろがり、
プルーフロックのように敢えてなにかをしてみる気もおきない。
グラスの酒が底をついたときだけ
オヤジは「何かおつくりしやしょうか」と
上機嫌が鉢巻きしてデリケートゾーンの
痒みを抑えつつも小躍りして訊いてくる。
仕方ないこともないが「チェック」と
心でつぶやいてみるも
仕方なく「同じやつ」といってしまうほどの、
使い古されたパブロフな日々の縛り。
ピッチングフォームは型がなかなか収まることなく
中学で野球も引退するも、波の上の板には上手に乗れず、
欲望に扱われ慣れた陰謀論的な愛の手には
心地よく乗れる。
手元が狂い、醤油やソースの雫が
カウンターにちょいとこぼれようもんなら
おしぼりの角でさっと吹き汚れた角を下手に隠しては
チェックの瞬間を伺うが、
まだ、おやじの下ネタは着地点を見ず、
むだに熱くなり、
そして、ひとり乾杯とつぶやいた。
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